静岡県内外から注目を集める一大ムーブメントとなった「ヒロアカ✕静鉄コラボ」。2025年秋には、バスやロープウェイも加わってさらにパワーアップした第2弾を開催しました。周囲の期待も大きかったその裏で、プロジェクトメンバーはどう動いたのでしょうか。
[座談会メンバー]
海野宅朗さん(静岡鉄道)
コラボを発案し実現にこぎ着けた中心人物。発案当時は鉄道の安全を守る安全推進課に所属。
三好絵里花さん(静岡鉄道)
企画始動当時の海野さんの部下。若手代表としてプロジェクト運営の中心に。
石原侑典さん(しずてつジャストライン)
コラボ企画第2弾ではバス部門を率先して牽引。海野さんの元上司。
鈴木一誠さん(静鉄アド・パートナーズ)
コラボツールや装飾、グッズなどのデザインを担当したグラフィックデザイナー。
荒尾周さん(静鉄アド・パートナーズ)
前任からこのコラボ企画を引き継ぎ、コラボイベントの運営を陣頭指揮。
電車・ホテル+バス+ロープウェイで地域を巻き込む
―第1弾から1年半後、2025年9月に第2弾が始動しました。第1弾と比べてどう変わりましたか?
三好 鉄道・ホテルの2事業に、バスとロープウェイも加わって、4事業で展開しました。第1弾でたくさんのお客様が静鉄電車沿線を楽しんでくださったので、もっと静岡市全体を楽しんでほしい、何度でも来てほしいという思いからバスとロープウェイも加えることになりました。
石原 バス事業でも、バスに乗るきっかけ作りや従業員のエンゲージメント向上という課題を抱えていたので、第1弾のときから状況を注目していました。第2弾で正式に声がかかってからは、自分を含めこの作品が好きなメンバーを集めてプロジェクトチームを組みました。
―バスではどんな仕掛けを?
石原 静鉄バスは静岡市外にも走っています。その露出の多さを活かして、路線バスだけでなく高速バスも車内外を装飾・ラッピングし、声優さんが車内放送するコンセプトバスとして走らせました。高速バスを横浜や東京へ走らせることで、静鉄グループを県外の方に知ってもらうきっかけ作りを狙いました。新静岡から日本平ロープウェイまでの路線にも走らせたので、鉄道・バス・ロープウェイがヒロアカでつながりました。


三好 鉄道・バス・ロープウェイでそれぞれに声優さんのアナウンスを用意し、ホテルも二次元コードで音声を流せるようにして、どのコンテンツでもキャラクターの声が聞ける仕掛けをしました。参加声優さんも第1弾コラボ当時の1人から9人に増えました。スマホの位置情報に合わせて音声が聞こえる音声ARアプリ「Locatone™」も活用し、イヤホン片手に静岡の街歩きを楽しんでもらう演出もしました。
鈴木 装飾などのコラボツールも前回よりたくさん作りました。ロープウェイの施設の窓ガラス面にアニメのクラス対抗戦シーンに出てくる牢屋に見立てたデザインを施したりして、ファンにも刺さる遊び心を盛り込みました。


海野 静岡市らしさを加えたいという思いから、静岡市が進める「静岡市プラモデル化計画」を意識して、キービジュアルにプラモデル要素を入れたりもしました。きっと静岡市にも喜ばれていると思います(笑)。静岡らしい富士山を取り入れたビジュアルなどは県内外のファンにも大好評でした。キービジュアルの発注をした際、鈴木さんが複数案を出してくれたのもありがたかった。
三好 進行管理の都合もあって「デザイン案を3〜4案いただけると」とお願いしたら、一瞬で7案くらい出てきましたよね(笑)。
鈴木 好きすぎてどんどん湧いてきてしまって。キービジュアルとしての採用は1案でも、他のビジュアル案が乗車券などに活かされて、すごくうれしかったです。
―第2弾で苦労したことは?
三好 個人的には、関わる役職者の方が増えて、自分より上の立場の方にも「それは難しいです」と言わなければならないのが大変でした。何より、ファンの方から「前回の方が良かった」と思われてはいけないというプレッシャーがあって、前回を超えることを常に意識してコンテンツを盛り盛りにしたり、前回想定不足でうまくいかなかったグッズ在庫や販売オペレーションなどは絶対に改善するように心がけたりしました。
鈴木 デザインでは「静鉄グループってヒロアカをよくわかってる」と思ってもらえるよう、ファンの共感を呼ぶシチュエーション作りに苦心しました。ただ最初のうちは自分がハマりすぎて、「静鉄らしさはどこ?」というくらいヒロアカの世界観を全面に押し出してしまい、お蔵入りしたものもいくつかありましたが(笑)。
三好 第1弾に続いて第2弾も、週刊少年ジャンプの告知ページでコラボを紹介いただいて、誌面上で宣伝していただけました。鈴木さんがデザインした絵がジャンプに載るというのもすごいことでしたね。
イベントオープニング動画に歓声が
―第2弾も出発式イベントを開催しました。盛り上がりましたね。
荒尾 清水マリナートのホールで1,500人を動員しました。チケットは会場の関係で価格を上げざるを得なかったにもかかわらず、その日のうちに定員以上の抽選申込がありました。それだけに1,500人をしっかり楽しませなければというプレッシャーがありました。静岡鉄道の川井社長も登壇し、役員もほぼ全員客席に揃っている中で、失敗はできません(笑)。新清水駅からコラボ電車のライブ映像をホールにお届けするという経験のない仕掛けを用意していたのですが、リハーサルではトラブルもあり、本番でうまくいくか心配していました。無事に成功した時は安心しました。


海野 映像としては、当日の朝に会場入りする声優さんが電車に乗っているシーンを撮影し、すぐに編集してオープニング映像にするという「撮って出し」もやりましたね。
荒尾 会場でオープニング映像が流れた途端に歓声が上がりました。声優さんご本人にもファンの方にも喜んでいただけて、ハードルは高かったけれど頑張ったかいがありました。イベント後は声優さんが電車に残したサインを見るために、ファンの方がこぞって電車に乗りに行っていましたよ。
三好 イベントでは音声ARの公開収録も行って、普段は見られない声優さんの収録シーンをファンの方々に見ていただきました。コラボ企画で公開収録をするのはあまり聞かないことですので、ファンの方にも大変喜んでいただけました。来場者はほぼ県外からお越しで、最も遠いところでは海外からという方もいました。ホテルのコンセプトルームも販売初日でほぼ完売でしたが、海外のお客様からの予約も少なくなかったです。
―CMも放送しましたね。
三好 オールマイト役の声優、三宅健太さんにCMナレーションをお願いしました。静岡県内ではアニメ放送直前の枠でCMを放送したので、静岡に来てヒロアカをリアルタイムで見る方には「静鉄のCMが流れてからアニメが始まる」という体験を提供できました。ホテルのコンセプトルームでアニメを見ようとしたらCMが流れたという反響もSNS上で目にしました。


お客様の流れが静岡市全体に波及
―静岡の街や周辺地域への効果は?
海野 第2弾は周遊・回遊性を高めることが裏テーマでした。日本平夢テラスや久能山東照宮、呉服町商店街、駿府城公園など、静鉄グループの枠を越えて静岡の主要観光地にも音声ARスポットやパネルを設置し、コラボを楽しみながら静岡市全体を巡ることができる仕掛けにしました。コラボの仕掛けをたどっていくと自然と観光地にも足が向く。静岡市全体への波及効果は狙い通りでした。
石原 バス企画では、バス停15カ所の丸い板に15キャラクターのステッカーを貼ったので、バス停を巡るファンの方まで現れました。遠く離れたバス停まで散りばめたのですが。
荒尾 一部のバス停では、バス停の名前とキャラクターをリンクさせるというストーリー性がありましたね。そのせいか全部制覇したとSNSに上げてくれるファンも出てきて、我々もびっくりするくらいでした。
海野 タクシーでバス停を全部回ったファンがSNSに「静鉄タクシーの運転手さんありがとう」と投稿しているのも目にしました。運転手さんも「バス停に行って」と言われて驚いていたそうです(笑)。これもある意味で相乗効果ですね。ファンの方も意図的に静鉄グループのタクシーに乗ってくれたようです。
三好 県外に出ている社会人の方がこういったコラボを知ることで「地元の静鉄が頑張っている」と言ってくれれば、帰省するきっかけになるかもしれないですね。地元愛を少しでも刺激できていれば、やったかいがあります。
ベテラン運転士も缶バッジを光らせて
―もともと狙っていた社内のエンゲージメントは、向上しましたか?
石原 社内は本当に盛り上がりましたよ。バスの運転士がグッズの缶バッジを任意で着用できるようにしたら、皆つけていました。年配の運転士もつけていましたし、従業員同士でバッジを交換したりして、一体感が生まれました。新静岡セノバや静岡駅前の窓口の係員も、バッジの話題からお客様と触れ合いながら周遊乗車券を販売するなど、グループ全体で盛り上がりました。
海野 話のきっかけになりますね。電車の運転士の中にも、自前で缶バッジを15個全部揃えて業務用バッグに並べてつけていたら、ファンから「写真を撮らせてください」と言われた人がいます。従業員には、接客の最前線で静鉄グループのお客様が増えていくのを感じてもらえたかなと思います。


運転士のモチベーションも向上
―では、第3弾も、ありますか?
海野 まだ何も決まっていませんが、やりたい気持ちはあります。第2弾終了後にとったお客様アンケートの大半が第3弾を期待していましたし、会社の代表メールにまで「第3弾を楽しみにしています」と声が届きます。静岡は東京・名古屋から新幹線で1時間と交通の便が良いのに、見るところがないと素通りされがちです。でもこうしたコラボがうまくハマれば、大都市圏からも来やすい位置にある強みが活きます。来た人が静岡を好きになって、年に1度の旅行先として選び続けてくだされば、静岡市への還元も大きいと思っています。
「挑戦すること」へのハードルが下がった
―最後に、ここまで走り続けてきて印象に残ったこと、感じたことを、一言ずつお願いします。
荒尾 コラボ終了後に印象に残ったのは、うちの子が電車を見て「普通の電車になったね、つまんない」と言ったこと。それがどれだけ街を盛り上げていたかを実感させてくれました。
鈴木 私は、静鉄とヒロアカは相性抜群だと思いました。当初はアニメをよく知らずに関わり始めましたが、本当に楽しかったし、今回の企画以外にもいろいろな活路が発見できた、良いコラボだったと思っています。
石原 私は小学生の頃から少年ジャンプが好きでしたから、自分が携わった企画がジャンプに載ったのは本当にすごいことでした。2冊買いました(笑)。このきっかけを活かして、お客さんに電車・バス・ロープウェイに乗り続けてもらえるよう頑張っていけたらと思います。
三好 「やれば変わるんだ」という手応えがありました。第2弾まで続ける中で、海野さんの方針を理解しながら自分の味も盛り込めるようになって、個人としても糧になりました。ファンの方がSNSで「楽しかった」「静岡に来てよかった」と伝えてくれる喜びは、会社員生活でなかなかない経験です。
海野 私は静岡の地域貢献がしたくて静岡鉄道に入社したんです。地域貢献というと、当初は箱物を建てるイメージが強かったですが、こういうコラボを通じてお客様が喜ぶ姿を見て、貢献の仕方はいろいろあると実感しました。私もそうですが社内外で様々な経験をした人財の集まる静鉄グループだからこそ、多種多様なアイディアとアプローチでコラボを盛り上げられたのだと思います。この企画を実現できたことで、地方だからこそできることにチャレンジしやすくなったし、何より「挑戦すること」へのハードルが下がりました。今後も第2第3の新たな企画がどんどん出てくるといいなと思っています。
―10年後が楽しみですね。
海野 その頃には、静岡市を巻き込んだもっと大掛かりなコラボになっていたら嬉しいですね!
コラボ期間中にベテラン運転士が身につけていた缶バッジ。静岡市外から訪れるファンはもちろん、地元の方から見ても誇らしげに映ったのではないでしょうか。作品の魅力に突き動かされた人たちが現実世界を塗り替えていく、ちょっとハードで幸せなリアル・ストーリー。続きが気になります。
